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吼える月
第35章 希求
 

「くぅぅぅっ!!」


 サクに向かわれている赤い光の威力は凄まじく、それをサクが必死に受けている。力を弾いたりして軌道をそらすと、この地下はこのまま崩れて彼らは埋没する危険性もあった。

 だからサクは、力を持つ石扉の符陣にそのまま戻そうとしていたのだった。……シバに負担をかけさせまいと、朱雀の力をすべて受けながら、符陣を朱雀の力で破壊させようと。

 しかし石棺にかけられた朱雀の力は、無限に思えるほどの絶大なる力を持ち、神獣の力を使い始めたばかりのサクの身体に、負荷がかかり始める。


「くっ……」
 
 サクが、じりと片足を後退させる。

 許容量を超えたために、サクの手から血が噴き出した。


 明らかなる異常。


「サク、危ない!! サク、サク――っ!!」


 ユウナは不安と恐怖に、泣き叫んだ。


 サクを死なせたくない。

 自分がどうなろうとも、サクだけは。


――姫様。


 サク。
 サク。


 あたしの、サク。

 あたしだけの――。


「……っ」


 途端に胸の奥で、なにかの重苦しい感情の奔流を感じて、ユウナは地に膝を着いた。


――は!? なに言ってるんだよ。猿が好きなんだろう!?


 なにかが膨れあがって苦しい。


「こんな時に……」 


 サクを応援しないといけないこんな時に、なんで涙が零れるの。

 いけない、他のことを考えていては。

 目を手で拭ったユウナは、きりりとした毅然たる姫に戻る。

 ユウナは今にも溢れそうな、忘れた記憶をまた意志の力で封じ込み、そのまま両手を合わせて祈願した。


「神獣玄武よ。あなたの武神将であるサクを、サク=シェンウを守護して下さい。どうかサクに、ここを乗り切れる力を」


「負けるか――っ!!」

「神獣玄武よ、どうか我の祈りを聞き遂げたまえ」


「イタ公っ!!」

「イタ公ちゃん、どうか!!」


 サクの光と、ユウナの耳飾りから伸びる光がひとつになる。



「「神獣玄武よ、力を!!」」


 カッ。


 サクが出す力が朱雀の力を押した時、サクとユウナの心に声がした。

 それは――。



『我は神獣青龍。我の嘆願によりここに出現せり』




「「青龍!?」」


 ユウナもサクも、突如心に届いた声の主に、驚いた声を出す。
 
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