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吼える月
第36章 幻惑
 
 平和だと思った。

 世界にサクとただふたりきり、まるで不安にならない。
 それどころか、こんな長閑な時間が続いて欲しいとすら思う。

「サク、起きて。サク?」

 つんつんと頬を突き続けるユウナは、サクの片手がユウナの後ろに伸びていることを知らずに、悪戯っ子のような笑みを浮かべる。

 そして――。

「なにやってるんだよ、ユウナ」

 開いた漆黒の瞳は、甘さと愛おしさを滲ませていて。
 ユウナの後頭部を弄るサクの手は、そのままユウナの頭を彼に近づける。

「え、ちょ……っ」

 唇が重なった。
 その瞬間、甘い痺れがユウナの体を襲う。

 サクの唇は、ユウナの唇をゆっくりと食むように、角度を変えてなされていたが、やがてユウナの頭を手で固定しながら、噛みつくような口づけに変わった。

「ん、んんんっ、ん、ん……ぅっ」

 ユウナから甘い声が漏れると、サクは舌をねじ込ませ、逃げるユウナの舌を追いかけ捕まえると、ねっとりと舌を絡ませる。

「ん、んふ、ぅぅんっ」

 ぞくぞくと背中を駆け上るものに喘ぐユウナは、サクに誘導されるようにして、サクの首に手を回せば、口づけがさらに深く激しくなった。

 幸せだと、ユウナは思った。
 サクとふたりだけの世界に生きていることは、なんて幸せなんだろう。

 そうだ、ここは世界の果て。
 ようやく安穏出来る土地を見つけ、ここでサクとふたり生きているのだということを、ユウナは思い出した――。
  
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