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吼える月
第36章 幻惑


 ……サクがいない、こんな世界はいらない。


「消えよ」


 ユウナから毅然とした言葉が出る。


「ユウナ、オレヲ……」

 目の前にいる偽りのサクの片目から、涙がこぼれ落ちる。


 迷わない。
 自分が好きなサクは、ひとりだけなのだから。


 途端に白い牙の耳飾りが光る。

 
「我は黒陵国祠官の娘、ユウナ。未来の黒陵を統べる者なり!」

 
 迷いないユウナの意識は、強い語気を放つ。

 
「神獣玄武の名において」


 サクを好きだと再認したユウナは、どこまでも強く。


「サクの幻よ、消えよ!」


 突き出されたユウナの手から、水色の光が放たれる。


「ソンナ、オレハ……」


 サクの姿をしたそれは、水色の光に掻き消されていく。


「ユウナ……」


 そして――。


「え……」


 残ったのは、拡がる砂漠にユウナがひとり。
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