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吼える月
第10章 脆弱
 

「我らが一番に嫌うのは、仲間を売る者。この者、我らに黒陵国の姫と護衛がいることを密告し、褒美を求める不届き者ゆえに……その処遇、この男の住まう街の民に任せる」


 男が懐より地に放ったのは、消えたはずの黒崙の紋章。

 そして、男は馬の尻に括り付けていた縄を懐刀で切り、その大きな荷物をハンに放った。荷物は地面を転がり、巻き付けられていた布が拡がる。


 そこにあったのは――。


「――っ!?」



 タイラ――だった。



 強面で、屈強な体格であった彼は、口から泡を出し……なにやらへらへらと笑い、気狂いのようで。


「ユマ……ユマ……なぁ、これで俺の嫁に……ぐふふふ……お前の言う通り……なぁ、ユマ……これで俺を……」


 ユマの名前を呼び、芋虫のように這いつくばって動き出したタイラを、ハンも男も幼女も、ただ冷ややかに見つめた。


 一体、タイラになにが起きたのか……。

 ここまでに追いつめたのは、この男だという確証はない。


 さらには――。


――我らが一番に嫌うのは、仲間を売る者。この者、我らに黒陵国の姫と護衛がいることを密告し、褒美を求める不届き者ゆえに……その処遇、この男の住まう街の民に任せる。


 ……自業自得、と言っていいのか、サクは本気で悩んだ。


 タイラは、自分を売ろうとしていたのだ。

 恐らくは、ユマを手に入れようと強行的に。



「――わざわざお届け、恐れ入る」


 ハンは、恭しく男に頭を下げていた。
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