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吼える月
第10章 脆弱
 
「武神将、我らは汝らの敵ではない。まずは、警戒を解き安心されよ」

「………」 

「……事を急がれよ、武神将。呪詛は……時を待たぬ」


「え?」


「倭陵において禁忌とされた、穢れた禍(わざわ)いの……穢禍(さいか)術による呪詛を抑えるは、穢禍術をかけた者と同等の立場にある者との"和合"による相殺が必要。

即ち、"同じ"神獣抱えたる汝か、魔を抱えつつも"同じ"神獣を新たに取り込もうとする汝が子息か」


「……穢禍、術だと? しかしそれは……」


「そう。我が言う呪詛は……汝が子息のことではない。性交により穢禍術をかけられた姫のこと。しかもその呪詛はより強固に二度がけされている」


 ハンの顔色が変わった。



「――姫は……ユウナ姫は今どこに!?」



 男は言った。



「案ずるな。今、我の力で眠らせている。然れど……我では穢禍は解けぬ。目覚めれば呪詛により……姫はまた狂う。それを抑えて、平生に戻すには神獣を抱える強い男が必要だ。

だが汝が子息の場合、現状術者より力が足らぬ。術者同等の力となるには、神獣と魔、双方の力が必要だ」

「共存を貫け……と?」

「否、共存ではない。捕食でもない」


 ハンの顔色が青ざめていく。


「では、融合をさせよと!? 神獣と……魔を!?」

「然り。そうして、初めて道は……拓かれる。力ある汝が相手であれば、この限りではない」


 ……聞いていてサクはいらいらした。

 遠くでということもあるが、男の口調がまどろっこしい上に、なにを言っているのかさっぱりわからない。

 だが、自分とユウナに関係するということはわかった。



 痺れを切らせて出て行こうとした時、


「………ねぇ、誰か来た!」


 幼女が男の服を引っ張れば、男は馬の手綱を引いた。
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