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吼える月
第14章 切望


「お選び下さい、ハン様。


片目片腕片足のまま、今ここ玄武の力を持つ僕と……輝硬石に身を包んだ近衛兵達と戦うか。


それともサクにその命ごと力を移譲するか。


早くお決めにならないと、死んでしまいますよ……サラ様が」



「ハ、ハン……っ」



 手を伸ばして口から血を流すサラ。

 背中から突き出た刃先が、鈍い血色に光る。


 降りしきる雨――。


 どくどくと流れ出るサラの血潮。




 サラを助ける為に今ここでリュカ達と対戦するか。

 サクに未来をかけて、サラを見殺しにするか。


「どうしました? 嘆願の儀とやらを、またどうぞ?」



 嘆願の儀は……今のこの体には、あと1回がせいぜい。

 どの部分を代償にしても、自分はもう動けなくなる。

 そしてサラもあの傷ではもう動けまい……。


 だが、サラを放置はできなかった。


 見殺しにはしたくない――。



――ハン、死ぬことは許さないわ。




「さぁ。どの部分を誰のために使うか――」



――俺は……親父が恥じねぇ男になってみせる。親父あっての息子だと、あの親父を超えた武神将だと、絶対他から言わせてみせる。




 どくどくと鳴り響くハンの心臓。

 それに合わせるように、どこかからか……笛の音が聞こえた気がした。



「――貴方が切望する選択肢を、お選び下さい」




 その澄んだ音色が、理不尽な選択を突きつけたリュカの声音と重なった時、突如閃いたものにハンの目が見開いた。



「まさか、お前――っ!!」



「選択肢以外の言葉は受け付けません。これが最後です、ハン様。


貴方は死にかけの妻とこれから死ぬ予定の息子、

――どちらを助けたいですか?」



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