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吼える月
第14章 切望
  



「リュカ――っ!!!」

「おおっと、動くとこのままサラ様に突き刺した剣を引き抜きます。引き抜くとどうなるのか、武官である貴方ならおわかりになるでしょう?」


 引き抜かれれば、血が迸る。

 サラの命が短くなってしまう。


 だからハンはぎりぎりと歯軋りをしながら、片目でリュカを睨み付ける。

 かつて、サクとともに面倒を見てきた、息子の友であり、この先自分が仕えるべき予定であった、智将を。


 黒崙に来た時とは、まるでうって変わったような冷たさだった。



「……ハン様、貴方がサクに移譲していない力、どこにいったかわかりますか?」


 くつくつと笑うリュカは無表情のまま。

 すべてを知っているというようなそんな含みをもたせながら、冷ややかな美貌がさらに凍てついた。


「神獣を恐れたのはゲイ陛下が幻影だったから。その幻影ができるのは限りある。遠隔からでも神獣の力に触れることは容易いことではない。

だから、玄武の力を攻撃ではなく防御に回るようにするために、陛下の幻影はハン様の臓腑を壊し肋骨を砕いていたのです。貴方が今動けているのは、玄武の力が貴方の命として支えて加護しているから。その力がなくなれば、貴方は力尽きてしまうでしょう」


「……だから?」


「知っていますか、ハン様。貴方が死んでしまってからでは、サクに貴方の持つ力は"すべて"移譲できない。そしてサクの呪詛は、僕か貴方のその力が補充されなければ、解呪には至らない」


「――っ!?」


――なぁ、親父。その……片付いたらでいいけど、その……親父に残っていた分の力もくれねぇか?


 なぜサクが控えめに、念を押してきたのか。

 なぜ……秘密裏に進めていたことをリュカが知るのか。


 街長か。ユマの証言か。

 そこからリュカは推察出来たというのか。


 ああ、だけど彼らはそこまでの武神将や玄武の内情を知らないはずなのだ。だったら、なぜリュカは知り得た? 



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