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吼える月
第15章 手紙
 







「きゃああああああああ!!」

「あいつら――っ!!」


 まるで飛ばない馬は、崖をも駆け下りない。

 絶叫のように嘶いた途中で、人間よりも先に気絶をしたようだ。


「どこが天馬だ、ただの駄馬だろうが――っ!!」


 見事宙に投げ出されたサクとユウナ。


 頭を下にした、垂直落下の状況。

 衝撃を和らげるだけの木々もなければ、足で蹴って速度を変化させられる足場もない。

 あるのはただ……目前に迫る地面のみ。

 

 それでもサクはユウナを抱え、空腹で伸びたままの役立たずのイタチの尻尾を掴んで、この危機的状況の改善を必死に考える。



「いやああああああ!!」



 神経が、細胞が、生存本能が。



――よいか、小僧。玄武の力というのは"核"がある。それは我の命とも等しい。核があれば、いくらでも力の回復は可能であるが、核がなければなにもできぬ。今、小僧が呪詛の解呪に必要なのは、父が小僧に譲っていなかった核部分。そして我が小僧に伝授しているのは、核を移譲せずして力だけを移動させる方法じゃ。 


 考える思考を超えて、直感を与える。


――核がなければ、神獣の力は他人がおいそれと操ることが出来ぬ。核を巻き込んだ力の操作は、人間如きが容易には操れぬ。代償なくしては。



 ……力を。

 衝撃波のような力を地面に先に叩きつけられたら。


 イタチ姿の玄武は消えていない。

 核さえあれば、今ある僅かな力を拡大できるはずだと。


――ま、増産する方法は省略だな。お前は馬鹿だから、そこが一番時間がかかりそうだ。とりあえず、力の出し方と制御方法だ。


「つーか、省略しねぇで先にやり方教えておけよっ!! 気絶すんな、イタ公――っ!!」



 力を。

 自分に、ユウナを救う力を。



「があああああ、全っ然、力が出てこねぇ――っ!!」



 それでも諦めるな。

 最後の最後まで諦めるな。


 その時――。



「!!!!?」



 サクの全身に熱いものが流れた。
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