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吼える月
第15章 手紙
「あたしはサクに、故郷を棄てさせた。辛い別れをさせてしまった。その代償がなにもないというのが悔しい。

ねぇ……さっきの、サクのお願いのひとつに、答えてもいい?」


 サクの瞳が、予期せぬ提案に狼狽えるように揺れた。


「あの時も、サクと離れることを考えられなかったの。お父様とお母様のように、会えない日々が続くのは嫌だった。一緒にいられないのなら、相手の訪問をずっと堪え忍んで待つだけというのなら、夫婦なんていう関係はいらない。だけど護衛であれば……あたしが結婚してもずっと傍にいてくれると思ったから」


 離れずに傍に居たい――。


「サクは……特別なの。サクは常に一緒にいて欲しいの、今もそう思う」


 1年前と1年後――。

 変わらない、ユウナの心がそこにはあった。


「姫様……俺、護衛の時だって別に四六時中一緒にいたわけじゃ…。闘いや鍛錬、武官としての務めがある時や、夜だって家に帰ったり……」

「だけど、心情的に遠くはないわ。サクは昔からどこにいても近くに居た。外出から帰ってきたら真っ先に"ただいま"をくれた。

…お父様は、お母様に…それがなかった。愛があっても、用がなければ顔を見せなかった。忙しいという理由で死に目にも駆け付けられない。お父様なりにお母様を愛していたのかもしれないけどあたしには、心の繋がりが感じられなかった。だから…サクとはそうなりたくなかった」


 一緒に居られずとも男女としての契りを交わして子を成せる夫婦がいいのか。男女の仲になれずとも、一緒に居られる関係がいいのか。

 どちらがいいと説明出来るほど、サクは饒舌でも器用でもなく。

 たとえそれが、"女"としての情から出た言葉でなくとも、自分が特別であると思って貰えるのなら、心までも傍に居たいと思ってくれるのなら。


 それだけで、心が熱くなるのを抑えるのが精一杯――。

 泣いて辛くてたまらなかったあの日々が、そしてユウナを護るためにと熾烈な儀式や闘いを抜けてきたことが、報われるような気すらしてくる。


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