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吼える月
第16章 船上 ~第2部 青龍の章~ 
 


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「ん……」


 ユウナが目覚めた時、隣にサクの姿はなかった。

 身体の上にはきちんと薄い布団がかけられ、さらにその上にサクの外套がかけられていた。


 いつもは不器用この上ないのに、こうしたサクの気遣いは昔からある。

 それはサクにとっての、従僕としてのただの姿勢なのかと思っていたが、解雇した今でもそれを継続されているのと、彼自身の性格なのだろう。


――……俺、姫様が好きです。嫁にしたい気持ちは、変わっていません。昔からずっと……。



「夢……じゃないよね」



 胸の奥が熱くなる。


 思えば……、リュカは自分に切実な顔で好きだと言ってくれたことはなかった。サクに言うのと同じ様子で"好きだよ?"と微笑まれた時はあるけれど、その時はこんなにドキドキしなかった。

 だから自分も笑顔で返せたのだ、"あたしもだよ"、と。


 だが、サクには言葉を返せなかった。


 ドキドキするだけで。

 サクの言葉が胸に深く突き刺さるだけで。


 安易に返せない、そんな真剣ゆえの切迫感を感じたからだ。


 ユウナもサクは好きだ。


 だから好きか嫌いかと聞かれれば、はっきり好きだと言える。

 一緒にいたいから夫に選ばなかったほど、好きだ。


 だが、なんだろう。

 今まで、この"好き"という単語にこんなに心がぽかぽかすることはなかった。まるで愛に飢えていたのが、満たされたような感覚――。


 自分は愛されたかっただけなのか。

 それとも、サクの言葉だから嬉しいのか。


 それはよくわからないけれど、そのうち結果が出る気がする。

 しかもそう遠くない未来に。



 ……そんな予感がするのだ。

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