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吼える月
第16章 船上 ~第2部 青龍の章~ 
 

「ふぅ……これだけで腹筋も腕の筋肉もぴきぴきいってるわ。さあ、頑張って今度こそ……」

「姫様はいいんです、姫様は」


 サクは足から手を離して言った。


「よくないわよ。あたしも強くなるの。サクばっかり強くなっても仕方が無いんだから」


「姫様は、俺と立場が違うんです!! 俺は強くなって当たり前。姫様は護られて当たり前」

「あたしだってサクを護りたいもの。不公平よ」

「姫様~。武人を護る強い姫はいらねぇです。そうしたら、武術だけが取り柄の俺の立場なくなるじゃねぇですか」


「あら、サクの取り柄は武術だけじゃないわ。卑屈にならないでよ」

「……たとえば?」

「え? たとえば……」


 言葉に詰まるユウナを、サクはじっと見つめている。

 神秘的にも思える、吸い込まれそうな漆黒の瞳で。



「武術以外の、サクの取り柄……」


 場を和ませるその雰囲気。

 ……だけど空気が読めずによくハンに怒られたり茶化されていたような。そういうのは取り柄と言わないのだろう。


 逞しい身体と美貌は……?

 ああ駄目だ、どうしても抱き合ったときのことを思い出してしまう。またサクを避けてしまいそうだ。


 外貌のこと以外で考えよう……。

 それ以外で、サクの取り柄……。


 頭は……武術以外のことに関して、いいとは言えないし。

 礼儀は……恐れ知らずなほどに、全然だし。


 最強の武神将の息子というのも、取り柄とは言えぬだろう。


 
 武術と容貌以外の取り柄……。

 取り柄……。



「………」

「………」


「………」

「………」


「………」

「………」


「………」

「……ねぇんですね、結局」


 サクが消沈顔でむくれた。
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