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吼える月
第16章 船上 ~第2部 青龍の章~ 
 

「そ、そんなことないわ!!」

「だったら言ってみて下さいよ。俺の取り柄」


 ずいと、サクは前に出て来て、ずいと、ユウナは後ろに下がる。


「ええと……ええと……」

「ほら、ねぇんじゃ……」


「優しいところ!!」


 汗をかきながらだが、嘘は言っていない。


 サクは優しい。

 口と態度は悪いけれど。


「……姫様、昨日…俺のこと意地悪と言ってましたよね? 優しくしてくれたらいいのにって」

「そこまで聞いて覚えているなんて……。そうね、サクは意地悪だから、確かに優しくないわね」

「……姫様……。思い直して下さいよ、そこは」

「あとは……そうね、指と舌が器用なところ!! どう? これなら立派にサクの取り柄じゃないの。不器用なサクが、唯一指と舌だけ器用なのよ? 本当にあたしびっくりしたんだから。どこで覚えてきたのかしらね、あの指使いと舌遣……」


 言ってから、ユウナははっとした。


「それは……どういった意味で?」


 サクの顔もまた、微妙だ。


「い、いや……その……。ほら、護衛以外にもサクは……自分で言ってたじゃない。洗浄係や治療……あ」

「……。もう言わねぇ方、いいと思いますよ、姫様。藪蛇って奴です」

「そ、そうね……。慎むわ」


 ユウナは素直に頷いた。


「だけどこれだけは信じてね。サクには、言葉で表せないほど、沢山取り柄があるから。……多分」

「お気遣いありがとうございます。最後の"多分"が余計ですが。

とにかく!! 姫様は鍛えないで下さい。姫様がムキムキになってしまったら、抱き心地悪くなっちまうじゃねぇですか」

「だ、だだ……抱き心地!?」


 ユウナの目が見開き、真っ赤な顔になって仰け反った。
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