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吼える月
第16章 船上 ~第2部 青龍の章~ 
 

「何度抱いて走ったと思うんです? これからだって多分あるでしょうし」

「ああ、そっちの方ね」

「そっちって……?」

「あ、いいのいいの、独り言」


「………」

「………」


「……姫様」

「はい?」


「……なんの"抱く"を想像しちゃいましたか?」


 サクの目がからかうような光を宿す。


「姫様……俺とそうなりてぇんですか?」


 汗ばんだ気怠げな顔から放たれる色気。


「姫様がお望みなら、いくらでも。治療以外でも、俺唯一の取り柄の舌と指で、姫様を愛して差し上げますが?」


 噎せ返るような男の匂いを強烈に放ちながら、サクは挑発的な流し目を寄越し、自らの唇を舌舐めずりをした。


「……なっ」


 狼狽するユウナを見て、艶然と笑うサク。


「優しく愛して差し上げますよ?」


 誘惑するように手を伸ばしかけた時、頭の何かが跳ねた。


 ガツン、ガツン。


 容赦なく、身体を叩きつけているのは……イタ公だ。

 見ずとも、憤慨しているのがわかる。



「――なぁんてね」


 はっと我に返ったサクが笑って誤魔化せば、頭上の震動は収まった。

 ……どうやら誤魔化されてくれたようだ。


「まあ肌と肌を擦りつけてぎゅっとしあう時、筋肉だらけでは俺も触り心地が悪いから。幾らお互い汗をかいて滑りがよくなっても、やはり柔らかな……」


「いやああああ、サクの馬鹿ぁぁぁぁ!!」



 ばっちーん。


 サクの頬に真っ赤な手形がついた。



『くくくくく』



 ……頭上のなにかが、愉快そうに笑う声がした。


 
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