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吼える月
第16章 船上 ~第2部 青龍の章~ 
  
「ちょ……ちょっと待って、ねぇどう考えてもあたし祠官なんて……」

「そうですか? はまり役だと思いますが」

「そんなわけないでしょう!? あたし頭も悪ければ……」

「俺を表舞台で活躍させたいんでしょう?」

「そうだけど、あたし……」


「姫様、死んだ者の無念をこのまま引き摺るおつもりで?」

「そ、それは……」

「姫様。祠官になりたいと言った時の姫様は、生き生きとしていました。昔の姫様のように。

姫様、俺は……姫様に出来ないとは思いません。ただ今の状況では、色々無理です。黒陵から、命からがら逃げてきた身の上としては。リュカ達の方が、力がありすぎるのは自明の理」

 馬鹿だなんだと罵られるサクであるのに、まるで武神将としての自覚に目覚めたかのように、状況判断に優れていた。

 それは、まるでハンを見ているようだと、ユウナはぼんやりと思った。


「ハンに怒られるわ。あたし、サクを託されたのに。なに馬鹿なことでサクを扇動したのだと。無実の謀反容疑を、本当にしてしまうのなら」


「親父なら……笑い転げるだけですよ、姫様。……多分、この事態こそ、親父が望んでいたように思えるんです。だからジウ殿の、蒼陵の力と知恵を借りろと言っていたのだと。

姫様、その未来の選択肢を、今後考えて行きましょう。今は結論が出なくても、姫様がこれからどうしたいのか……この先に進むための目標を。

俺はもう決めました。姫様が選ぶどんな道でも、俺はついて行きます。謀反? 上等です。体勢立て直して、今度こそリュカを……いやゲイを、打ち負かしましょう。俺、あの金の男に、ぶん殴ってやりたくてたまらねぇんです。ま、ぶん殴るだけには終わらないでしょうが」


 サクは……陽気だった。

 ことの重要さをわかっていないのか、それとも剛胆すぎるのか。


――なぁ姫さん。俺の息子は、大きな舞台さえ与えりゃ大きく化けるぞ? 先物買いしときな。


 昔昔、ハンが笑いながらそう言っていた。



「………っ」



 化けてしまうのだろうか。

 本当に、化けさせていいのだろうか。


 サクの成長を期待しているのはハンだけではなく自分もだというのに、おかしな躊躇が心に芽生える。
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