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吼える月
第16章 船上 ~第2部 青龍の章~ 
 


 落ち着け、落ち着けよ、俺。

 今まで通りに、姫様に笑いかけろ。

 笑って過ごせるだけの余裕を見せろ。

 この1年間だって、なんとかやってこれただろう?


 今は……姫様とふたりなんだ。

 姫様を護らねばならない時に、自分の心ばかりを優先させるな。

 それにまだ、自惚れるほどの時間は流れていねぇだろ。

 これからだろうが、俺の踏ん張りは。

 こんな初っ端から挫けてどうするよ。



 ゆっくり。

 もっとゆっくり。


 呼吸をして、現実をただ静かに受け入れろ。


 なにも考えるな。

 なにも、悲嘆するな。

 自分は、自分の速度で進めばいいだけだ。



 だけど――。


――リュカあああ。



 泣いていたユウナ。

 自分に悟られまいと、嘘臭く笑ったユウナ。




 なんでこんなに心が痛ぇんだよ――っ!!
 
 ちくしょう――っ!!! 




 ……サクは、ユウナの話など聞いてはいなかったのだ。



「返事をしてよ、サク……」

「………」

「もう話をしたくないほど、あたしが嫌いに……なったの?」

「………」

「もう……あたしの武神将になるのも、嫌?」

「………」



「あたしを……よ、嫁にするのも……嫌?」




 はっと我に返ったのは、ユウナに脛を蹴り飛ばされ、そして腕に噛みつかれた瞬間。



「サクの馬鹿ああああ――っ!!」


 ユウナは反対の方向に走り出してしまったのだった。
 


「ちょ……姫様、姫様っ!!」
 
 
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