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吼える月
第17章 船上2
 


「だって……髪短くなった途端にサク、あたしのこと無視し始めたじゃない!! 何度聞いても返事がないってことは、あたしの髪が短くなってあたしのことが嫌いになったから、もう嫁にも欲しいと思えないほど、嫌いになったから……っ!! 女としてはもう見ないんでしょう!?」

 サクはユウナの両手を捕まえながら言った。


「考え事をしてたんですよ、どこかの誰かが俺以外の男の名前を呼んで泣いているから!! だからそっちの方がいいのかってこっちは落込んで心痛めていて、姫様の言うことちぃっとも聞いてませんでした!!」

「き、聞いていない!? 少しも!?」

「少しも。全然。まぁったく。聞いていれば、返事しますよ。どんな内容でも、返事をすることが従僕の勤めだと、親父からその心得を叩き込まれてきましたし。それ以外で俺、返事しなかったり無視したりしたことありますか!?」

「い、いや……ないから。だからあたし……」

「哀しいですね……俺、そこまでひでぇ男なんですか!?」

「なによ、あたしを責めるの!? あたしだって傷ついたのよ!!」

「それは……失礼しました、姫様。……俺、髪の短い姫様も好きです」

「なっ!!」


 それは突然のことで、ユウナの声はひっくり返った。


「長い姫様も可愛いと思いましたが、俺としては短い姫様の方が……」


 ユウナの両手を掴んだまま、サクはユウナを抱きしめるように身体を近づけさせると、その首筋に舌を這わせ――、


「ひゃぁぁ……サ、サクっ!!」

「髪短い方が、こうやって姫様に悪戯しやすく、可愛い声を聞けますし?」


 にやりと、首筋から笑いを浮かべた。

 そこに艶気を見たユウナは、途端に鼓動を早めてサクを離そうとする。


「ちょっと、離れなさ……っ」


 しかし、声をたてて笑うサクは簡単には離れない。

 
「ねぇ、姫様。つまり姫様が怒っていたのは、俺が髪の短くなった姫様を女扱いしなくなったから、嫁にしたくないと思うほどに嫌ったから、ってとこですか?」

 耳もとで囁かれるサクの声。

 それは妖しげな甘さと熱が込められていた。


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