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吼える月
第17章 船上2
 

「そ、そうよ、なによ、悪い!? ねぇ、もう離れ……」


 サクは口元で笑いを作ると、わざと甘やかに言った。


「つまり……

俺が嫁にしたいと思うほどに、女扱いしろということですね?」


「え?」


 そしてサクは妖艶な流し目で、ユウナを見る。


「髪以外の姫様の部分を女として愛でろ、……そういうことでしょう?」

「そ、それは……っ」

「違いますか? 違うなら、どういうことなのか馬鹿な俺にもわかるように説明して下さい。なんで俺のこと、旦那と言ったのかも含めて」

「……っ、あれは、え、演技で……っ」

「テオンが姫様のことを可愛く思うほどの演技? 姫様演技できましたっけ? 姫様は役者にはなれないと、いっつも親父笑い転げてましたよね」

「……っ」 



 サクの言う通り――

 どう考えても、裏を返せば自分の主張は……そういうことだ。


 嫁にしたいと思うほどに、女として見られたい。


 ただそれだけである気がする――。


 だから「旦那」にも過敏に反応してしまったのだ。

 旦那というものは、伴侶を女として認可したから貰える称号だから。


 今までサクにこうしたことを求めたことはない。


 性別など深くは考えていなかった。

 ただ、ずっとそばにいて欲しかっただけで。


 突然、サクに女として意識されたがっている自分。


 不可解ながらもそんな現状がわかれば、さらに恥ずかしい。


 サクが自分を嫌ったと思ったから、サクが自分を女扱いしないから。

 そんな理由で、勝手に癇癪起こして叫んで泣いていたのだから。

 しかも逆さ吊りにもなって、サクに助けて貰ったのだ。



 恥ずかしい。

 恥ずかしすぎる。


 ひととして、サクの主として。

 ……ひとりの女として。



「ん……?」


 覗き込んでくる黒い瞳は、どこまでも自分の真情をさらそうと執拗だ。


「あ、あたしはっ」

「あたしは?」


 勢い任せでも、サクは落ち着き払っていて、二の句が続けられない。


「……お兄さん、今日はいいお天気ですねぇ?」

「誤魔化さない」

 
 わかっているくせに、逃げることを許さない。

 どうしても、認めさせたいらしい。
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