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吼える月
第17章 船上2
 

「だけど……嬉しいです。姫様が……俺の唇、望んでくれて」


 やるせないようなため息で、その儀式のような口づけは終わった。


 こつん、と額を合わせて、サクの指は依然ユウナの唇をまさぐる。

 指で感じるユウナの唇は柔らかく。


 唇で触れているような錯覚に眩暈がする。



「そんなこと……俺には……」



 唇を重ね合わせたいのは、……切望。

 ユウナを女として意識し始めた頃からずっと胸に抱いていた、熱望。


 だけどそれは――。


「俺には……一生、ありえねぇと思っていたから」


 諦めていた夢だった。

 ……そう、これまでは。


「姫様の速度でいいんです。だから……いつか、心と共にその唇を俺に下さい。俺は……無理矢理奪うということは、それだけは絶対したくない。だから……待っています」
 

 触れたい唇。

 繋がりたい心。


 押さえ込んで、サクは熱の孕んだ瞳だけをユウナに向ける。


「姫様と、心からの口づけを交わせる時を」


 ユウナの熱い息がかかる指。

 ユウナの唾液に湿る指。


 指先はもどかしく、ユウナの唇を求める。

 唇は動き、言葉を吐き出した。


「善処、します」


 ユウナの答えに、サクは苦笑した。


「なんでそんな上から目線なんですか」

「だって私は……サクの主人だもの」


 ユウナはじっとサクを見た。


「そう……よね? だってサクは……この先ずっと、あたしの武神将なんだもの」

「姫様……」

「……儀式が出来る環境になったら、サクは……あたしのもの、よね?」

「……っ」

「やめない……わよね? ずっと一緒よね?」


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