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吼える月
第17章 船上2
 

 サクは照れたように微笑んだ。


「やめる理由がなくなりましたから」

「そんな説明では嫌。ちゃんと言って?」

「なにをです?」


 甘やかな目線が、せがむユウナに落とされる。


「あたしの武神将になるって……」

「ふふふ、なんですか。俺がせがんだ時は、渋ってたくせに」

「……言って!!」


 サクは、むくれてしまったユウナの額に唇を落とした。



「このサク=シェンウ、ユウナ姫だけの武神将にしていただきたく」






「……なんか、きゅんとこない」

「きゅん?」


 サクは怪訝な顔を返す。


「護衛だけではなく洗浄役と治療役もやらせて貰います、と宣言すれば?」

「違うわよっ!! もぅ、あたしに繰り返して」


 ユウナがすました顔で言った。


「"俺が武神将として、生涯一緒に居たいのは……"」

「俺が武神将として、生涯一緒に居たいのは……」



「"ユウナだけ"」

「ユウ……!?」


「"ユウナだけ"!!」

「ユ……ユウナ、だけ……」


 サクの顔は、過剰過ぎる程に赤かった。


「なんで赤くなるの? あたしの名前に、どこにそんな要素が?」

「い、いいんです。俺事情ですから。それより俺、姫様ではなく……」


 "ユウナと呼んでいいんですか?"


 そう尋ねるより前にユウナが笑った。


「あ、そうよね、サクの言葉なら"姫様"か。思わず自分の名前を言ってしまったわ、ごめんね?」

「……間違えただけかよ……」

「? "姫様"のどこに、そんなに落込む要素が?」

「いいんです、俺事情なんですっ!!」


 暫し項垂れて落込んだ後、やがて顔を上げたサクの顔は真摯だった。


「儀式、してくれますか? 

俺を、姫様だけの武神将にして貰えますか?」


 愛おしさを現わすように、サクの指がユウナの唇をまさぐる。



 ユウナは――……


「喜んで」


 花開くようにふわりと美しく微笑むと、サクの指に舌を絡めた。
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