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吼える月
第19章 遮断

 

「沈んだ……ということか? 高く聳(そび)える山脈が……?」

 

 サクは海を見つめた。

 海の深さは、山脈以上あるということなのだろうか。


『疑問は色々とまだあるが、まずは古今の地形を確認した上で、あの根城あたりが気を乱すのは、龍穴という特殊な場所ゆえなのか、別の作用があるのか、それを確かめてみないとなんとも言えぬ』


 昔の青龍殿跡には、今なにがあるのか――。


 イタチは、サクの頬に手を押し当てた。


『なぁ小僧。その……』

「なんだ、歯切れ悪い。言いたいことははっきり言え」

『………。もしも我が同胞が、不条理な理由で虐げられているのなら……。だけど我には、それを助けることは……』


 言葉を詰まらせ、消沈したように項垂れてしまったイタチ。

 その"願い"を察したサクは、笑った。


「そうだな、玄武の武神将として見過ごせられねぇな。イタ公が盟約により、自ら蒼陵に干渉できねぇのなら、ひとの身である俺が動くさ。姫様もそう言うだろうし。お前は掟に抵触しない程度に補佐してくれ」

『ぐす……っ。小僧……』


「泣くなって、なんでお前そんなに泣きイタチなんだよ。ああ、わかったわかった、お前は慈愛深い神獣なんだものな。

それに、予定外で青龍の武神将が狂ってしまったことで、救援が望めないのなら、皆を犠牲にしてここまで進んできたことが無意味になっちまう。隣国事情で泣き寝入りだけはしたくねぇ。玄武の武神将の誇りにかけて。

状況を改善するために、多分……、青龍の謎を解き明かすことが必要になってくる。直感だが、そんな気がするんだ」



 狂ったとされるジウ。


 青龍殿を移したことに意味があったのか。

 青龍が海に沈んだことに関係があるのか。


 そして隠匿されたその息子の台頭。

 彼が抱える"魔に穢れた者"。


 父に背いて居る場所は、青龍の神気を乱す場所――。


 すべての事象は偶然なのか、必然なのか。

 なにが誰が、国を鎮護する青龍から力を奪ったのか。


 そして――。



「"奴"の動向が気になる。何の目的で"偽青龍"を作り出したのか。その力は、リュカと関係があるのか。俺達の敵か、味方か……」


 サクは険しい顔を海に向けた。


「まずは会ってみるか。青龍の武神将が世間から隠していた、【海吾】の長に」



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