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吼える月
第21章 信愛
 
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 待てど暮らせど、目の前のサクが動かない。

 なにか意味があるのだとじっと待っていたユウナであったが、さすがに不安になって、サクの目の前で手を振ってみた。

 だが石のように固まったまま、ぴくりとも動かず。


「やだ、ちょっと。サク? サクってば」


 サクの異変に驚き、その頬をぺちぺちと叩いていた時に、突如その手首をがしっと掴まれた。


「お待たせしました、姫様。では続けましょう」


 そこには、どこか粛然とした空気を纏う、逞しいサクの姿があった。

 その頭に乗せた小亀が、呼応したように首をもたげ、なにやら偉そうにこちらを見て頷いた気がした。…奇妙なイタチ姿の時間は終わったようだ。



 
「我、サク=シェンウは、この命を主たるユウナ姫に捧げ」

「我、ユウナは、サク=シェンウを武神将として傍に置くことを宣言す」



 サクとユウナ、互いの父親がかつてしていただろう忠誠の儀は、その子供達によって再びなされる。


 感動が胸に広がる。

 この感慨深さは、代々から流れる血のなせるものなのかと、ユウナは密やかに思った。


「さあ、姫様。契約の印です」


 サクが、初対面の時からしていた耳飾りを外した。

 いつの間にか、ハンと同じく片耳になっていた、サクの白い牙の耳飾り。

 それがサクの耳から外れた時、何ともいえぬ悲しみがユウナの胸を打った。

 今まで当然と思っていた些細な風景ですら、いずれは変わるものなのだと。サクもまた、変わってしまうのかと。


 だからこそ――。


「姫様、これから俺は……、死んでも姫様のものです」


 そう真摯な顔つきで、凜々しく笑いながら、自分の耳に耳飾りをつけるサクに、堪えきれない感動の涙が込み上げてきた。
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