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吼える月
第25章 出現


 途端祠官が動揺したように咳き込み、テオンが背中を摩ろうと近づけば突き飛ばされ、変わってジウが祠官の背中を摩った。


 哀しそうなテオンを見て、頑なすぎる祠官に腹立たしい気分すら覚えてきたサクは、もう一度動揺させた言葉を繰り返した。


「なぜ、【海吾】にテオンの面倒を"見させて"いた?」


「違うよ、お兄さん。偶然行き倒れた僕を助けてくれただけだ。それで兄貴の優しさに甘えて、僕が居着いて……」

「それで? 偶然【海吾】がジウ殿に見逃されていて、偶然ジウ殿が"いじめられていない"と反論出来ていると? すっげぇ偶然だよなあ。そう思いませんか、ジウ殿」

 サクがジウを見ると、ジウの目は大きくなっていた。驚愕して普通の人間の大きさの目に、凶悪さは見えなかった。

 こういう図星をさされたジウの反応は、昔から変わらない。目を見開いて固まるのだ。ハンがジウをからかって遊んでいた気持ちが、少しわかる気がした。


「だけど、だけど、潰さずにいるのは、シバ……」

「お互い毛嫌いして、名前も呼びたくない"いない"相手だと思っている間柄なのに? それより祠官の息子が居るからと考えた方が、まだしっくりくるだろうが。まあ、ジウ殿が本当にシバを嫌っていたらの話」


 ジウは厳めしい顔つきとなって、シバに関するサクの言葉を身体全体で拒絶している。


「なんで……なんで僕がどうしていたのか知っているんだよ、ジウ!」

 答えないジウの代わりにサクが笑って答えた。


「そりゃあ【海吾】にジウ殿か祠官の間諜がいるからだろうよ」


 何でもないと言うように。
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