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吼える月
第25章 出現
 
「だけど、蒼陵のことを単純にお兄さんのお父さんが知らないのかも」

「確かにテオン。親父はここ二年、遠征ばかり刈り出されて、他国の事情に疎かったかもしれねぇ。だが、俺がここで訊いている限りの情報からでは、親父ならジウ殿がそうしなければならない"なにか"があると踏むだろう。俺だってそうだ。ジウ殿が狂ったふりをしているという選択肢を捨てきれなかった。

この蒼陵で不幸なのは捨てられる形になった子供と老人。連行された大人達の安否はわからない。……つまり、無事に別のところで生活しているという可能性だってある。それを好意的に考えないと、大人達を連行して"殺してしまった"ジウ殿は、狂っている……そう思われるだろうな」

「じゃあお兄さんは、最初からジウを信じていたということ?」

「俺が信じていたのはジウ殿じゃない。親父、ただひとりだ」


 サクはまっすぐにジウと祠官を見た。


「物覚え悪くて馬鹿な俺を、懲りずに育て上げてくれた、"親父"という存在は俺にとっては誇り。父親とは、どんな子供でも無条件に愛せる存在だということを、親父が死んでさらに強く思い知った」


 サクは、自分達を逃がすために片腕を失った父の姿を思い出す。


――よぅ、馬鹿息子。


 武人として厳しかった。だけど父親として甘かった。

 幼い頃からすぐ罰として鍛錬を言いつけ、いつもいつもユウナとのことをからかっては笑い続けて。だがユウナがリュカを選んだ時、泣き続けるサクの肩を抱きしめてずっと一緒にいてくれた。


 ……そんなハンは、もうこの世にはいない。

 だからこそ――。
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