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吼える月
第25章 出現
 

「俺は、親父が残したものを無駄にしたくねぇんです。どんなに手の掛かる困った子供であろうと、大重罪人であろうとも、父親とはすべてを敵に回しても、無条件に子供を信じて愛するものだと、親父は自らの命で証明してくれました。それが父親の真実の姿なのだと――。

そんな親父が言い残したのは、ジウ殿を頼れということ。武神将として苦楽をともにしたジウ殿の人柄をわかっているからこそ、親父はジウ殿のもとに俺達を託した。黒陵の現況を伝えて教えを乞えと。八方塞がりの状況の中、親父はあなたを頼った。俺にとってはそれがすべて。

ジウ殿が狂ったフリをしているのかどうか、それでものの見方は変わる。狂っていたのなら残虐だが、フリをしているのなら……そうすべき危機の到来を"なにか"から抑えようとしている……そうも考えられる」


 ジウはなにも言わず、サクを見ている。

 サクの直感は、ジウが耳を傾けていることが正解の意だと解した。


「ねぇ、お兄さん。狂ったフリかどうかなんて、そんなのわからないよ。もしかしてまともなフリをしているのかもしれないじゃないか。現にジウはお兄さんの力奪っているんだ、それもお父さんの名前のもとに好意的に思えるというの!?」

「親父の死を聞いて、ジウ殿が取り乱した――。俺には、それに勝る真実はねぇんだよ、テオン。ジウ殿は変わっていない。俺の知る……、温厚で心優しい方のままだと。相変わらず顔は迫力あるがな」

 サクが一瞥すると、ジウはわざとらしい咳払いを始めた。


「だけど、お兄さんはジウがしてきたことを見ていないから!! どれだけ蒼陵の民が嘆き苦しんでいたのか、わかってないじゃないか!!」

「テオン、じゃあ今のジウ殿はどう思う? お前は狂っていると、昔と違う凶悪な武神将がいると思うのか?」

「そ、それは……」


 テオンはジウを見ると、バツの悪そうな顔で言葉を詰まらせた。

 否定出来ないところが、テオンの答えなのだ。


 つまり、テオンの目からしてもジウは昔と変わっていないのだ。どんなにテオンが認めたくなくとも。
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