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吼える月
第26章 接近
 
「左様。光輝く者達が弾圧された今ですら、倭陵で民が苦しむ原因は、虐げられた"光輝く者"達の怨念と言われている。原因不明な奇怪な事柄ならなおも、その恨みは光輝く者に向けられ、弱い者いじめとばかりに、民の精神は荒む一方。…それでは倭陵は混沌となる。

だから私達としては、今まで世に…この病のことを出すことは出来なかった。折角生き残れても後遺症でおかしな力を持ってしまったことといい、これならば病にかかった者達も、病にかかったというだけで、光輝く者同等に生き続ける限り、忌まれることになるだろうと」


 そこからしてテオンは、父親に守られていたのだろう。

 テオンが生きやすい環境にするために。

 祠官はテオンを見た。


「テオンの苦しみは凄まじかった。お前は知らぬだろうが、何度も"痛い、痛い、殺して"と叫び続けていたのだ」

「え……?」

「いっそ殺した方が楽になれるのならとそれも考えたが、出来なかった。私は息子はお前しかおらぬ。可愛いお前を後継にするのが私の生き甲斐だった。なんとかしてお前を助けたい……そう思っても、薬効はなく。私に残された術は、神獣に……女神ジョウガに祈りを捧げることだった。

断食の行に入り、祭壇にお前を連れ、一心不乱に祈祷をしていたその時」


 ごくりと唾を飲み込んだのは祠官だけではない。


「テオンが……急に治ったのか?」

「違う、女神ジョウガが降臨されたのだ」


 サクは数度目を瞬かせた。


「女神ジョウガというのは、あの伝説の、倭陵の守り神か?」

「そうだ」

「神獣が崇める?」

「崇めているのかは実際聞かねばわからぬが、神獣はジョウガの使いだ」


 テオンの父親も、青龍とは会話出来ないらしい。


「そのジョウガが、私の祈りに姿を現わした」


 自慢げに祠官は言うが、この流れからして……、それは祠官が見た幻覚のようにサクは思えた。女神ジョウガがいるのなら、まず不吉な予言など現実に起きなかっただろうと思うのだ。

 黒陵の危機にも現れなかった女神ジョウガが、蒼陵の祠官の息子を癒やすためだけに降臨したとはどうしても思えなかった。
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