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甘く、深く、繋がって
第7章 失態
目の前の道を通る黒田さんを見たくなくて、早々に席を立った。
真っ直ぐ手洗いへ向かう。
淡いブルーのそこは清涼感を感じられて少しだけ気持ちが落ち着いた。
何度も嗽を繰り返し、ゴシゴシと唇を洗う。洗っても洗っても気持ち悪い。ぬらりと侵食してきた舌の感触がよみがえる。
簡単に接触を許してしまった自分が情けなくて涙が滲む。

ここは斎藤さんの場所、なのに……

私は手や頬が冷たい水に痺れ、感覚がなくなっても洗い続けていた。
途中入ってきたお客さんが驚いた顔で横を通る。

私、迷惑掛けてる……

そう気が付いて、ようやく手が止まった。指先がかじかんでジンジンする。
はぁと溜め息をついて鏡を見上げる。
真っ赤になった口と頬。涙でマスカラは取れてるし、ひどい顔。
化粧ポーチを取り出して、凍えた手で取り敢えずの修復を試みる。目元は何とかなったけど、擦れて冷えた頬はどうにもならない。
諦めて表に出たら少し離れた所に立っていたウェイターさんがクルリと振り返った。
「ぁ……」
「大丈夫、ですか?」
心配そうに私を伺う眼差し。
胸が苦しい。

見られてた……
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