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五十嵐さくらの憂鬱。
第13章 …13
「で、はるちゃんがなんだって?」

体育倉庫での情事を終え、
さらに授業が終わっての帰り道。
樹がバス停からマンションまでの道で
唐突に質問をした。

「え? あ、はるちゃん?」
「さっき、電話で話してただろ?」

すっかり忘れていたさくらは
あ、と声を出した。

「そういえば、井田修がどうこうって言ってたけど」
「修?」

それには樹が怪訝な顔をした。

「修がどうかしたか?」
「樹先輩のお友達?」

それに樹はうなづく。
そうこうしているうちに
マンションへとついた。

「お邪魔します」
「おかえり、さくら」

樹は玄関でさくらの頬にキスをした。
さくらは、地味にこれがとても好きだ。
心がほっこりする。

「かっこいいとか、なんとかって…」

ーーーどストライクかもーーー

小春の声が思い出される。
なにやら悩ましげで、ちょっと甘酸っぱい声。
さくらの方が、胸がきゅんとなった。

「修がかっこいいって?
まあ、あいつは男から見てイケメンだからな。メガネ取ると」

樹は鞄を置くと
ソファでくつろぎ始める。
さくらはキッチンでカップにココアとコーヒーを淹れながら
夕飯なに作ろうなどとのんきに考えた。

「まさか、修に惚れたとかじゃないよな!?」

何か考えていた風の樹が
急に顔を上げて眉根を寄せた。

どストライク。
惚れたと、同意語ではないだろうか。
しかし、まだ小春からきちんと説明もしてもらってなければ
確証がない。
さくらは押し黙った。

「わかんないけど…どんな人か、知りたがってたよ。
はるちゃん、ミーハーだから」
「どんなやつかって、飯より女より本が好きな
完全に本の虫ってやつだよ。
あいつも、女泣かせにおいてはピカイチだ」

さくらは危うく熱いココアを吹きそうになり
押しとどめたがむせて
樹に背中をさすってもらった。

「お、女泣かせなの!?」
「本にしか興味ないんだよ。
言いよってくる女はけっこういたし
興味ないから適当にあしらう。
それでもしつこいやつとはつきあうけれど
つきあったはいいが、興味ないから放置。
最終的には女の方が泣くけれど
それも興味ないから、おかまいなしだ」

ーーーはるちゃんーーー

さくらはカップを持って、樹を見つめながらフリーズした。

ーーーとんでもない人に恋しちゃったんだーーー

小春の事が心配になるさくらだった。

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