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五十嵐さくらの憂鬱。
第15章 …15
その修の行為に
小春は顔だけではなく
身体中が噴火するのではないかと思った。

「……!」

いつもおしゃべりな小春が
さらにしどろもどろになって
修は思わず吹き出して笑った。

「え!? …あの、えっと…??」

修が小春を覗き込むと
あっというまに
茹でたタコのごとく真っ赤になった。

あまりの面白さに
修は笑いが止まらず
そしてそのまま
小春にやさしくーーーくちづけした。

廊下のど真ん中。
まばらといえど、人も多い中。

小春の心臓が止まったのは言うまでもない。

「……大貫さん、つきあおっか」

小春は何が起きてるか全く分からず
とりあえず手の甲をつねってみた。

「夢じゃないよ。なんなら、もう一回しようか?」

修がまたもや顔を近づけてきて
小春は慌てて

「だ! 大丈夫です! わかりましたっ…!」

上ずった声で修を抑制した。
顔を真っ赤にしながら、どうしよぅ…、とつぶやく小春が面白く
修はまたもや微笑んだ。

もう一度、小春の頭をぽんぽんと撫でる。

「…う、嘘じゃないですよね?」
「うん」
「なんで、急に」
「理由、必要?」

それに小春は言葉を詰まらせた。

「…「心で見なくちゃ、
 ものごとはよく見えないってことさ。
 かんじんなことは、目に見えないんだよ」」

小春は顔を上げた。

「サン=テグジュペリ、ですね?」

そういうこと。
修は笑って眼鏡を押し上げる。

「行こう、大貫さん。
あの2人は、今ごろ
目に見えない肝心なことを確かめ合ってるはずだから」

小春は大きな修の手を、
やっとの思いで握る。

どれだけ、自分が悩んだか。
この手に触れたくて
触れられなくて悩んだかしれない。

こうやって、まさか、
一緒にいられるなんて。

神様…。

「行きますよ、姫」

修は握られた小春の手の甲にキスをすると
まっすぐに歩き出す。

ついて行こう。
小春はそう思った。
告白に、星の王子様を出してくる
見かけ以上のロマンチスト文学青年なんて
この世にこの人だけだと
確信を持ちながら。
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