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第75章 キタエル
「だね...」

画面の向こうで、羚汰が笑っている。

そう言って、互いの会話が途切れる。

何だろう。話したいことはいっぱいあった筈なのに。

面と向かうと何も出てこない。

そしてつい画面の中の羚汰をただ見つめてしまう。

「あは。そんな顔しないで」

「えっ、変な顔?」

空いた手で慌てて顔を覆う。
そんな様子を見てまた羚汰が笑っている。

「稜。好きだよ」

「え、あ...うん」

画面の向こうでは、スーパー前だからか、羚汰の後ろを時折人が賑やかに通っている。
日本語なんて分かるはずがないのだが、稜のほうが照れくさい。

こちらも、千夏たちに羚汰の声が聞こえはしないかと心配になるが、2人は向こうで笑って何かを話しているようだ。

「好き。すげー好き」

「...うん」

元々、臭いぐらい愛情表現をする人だったけど、イタリアに行ってそれが増した気がする。

「稜も言って?」

「うっ、今?」

「そ。小さい声でいいからさ」

そんな急に、ここで言えと言われても。

真っ赤な顔がまた赤くなった気がする。

「ほらー。なんで恥ずかしいの?俺は言ったのに。稜が言ってくれるまで、何度でも言うよ」

画面の向こうの羚汰が揺れて、何かに寄りかかって座っていたのを立ち上がり、スマホを持ち替えたようだ。

「好きだー!!!」

羚汰の後ろでスーパーの前を行き交う、おばちゃんや子どもが大きな声に驚いている。

「稜が、大好きだー!!」

突然の羚汰の大声に、慌ててスマホのスピーカーを手で覆う。

「わかった!わかったからー!!」

画面に向かって大きな声をしないと、ずっと向こうで羚汰が叫んでいる。
にやりと笑った羚汰が小憎たらしい。

「...っ、好き」

「聞こえなーい!」

やっと放った言葉が、小学生のいじめっ子みたいになった羚汰に却下される。

「...もうっ」

「俺への気持ちはそんなもん?」

むくれたような羚汰の声に、今度は声を振り絞る。

「うー。羚汰が、好き!大好き!!」

顔から火が出そうだ。

勢いつけて目をつぶったのを恐る恐る開けると、愉しそうに羚汰が笑っている。

「やっと言ってくれたね」

「恥ずかしい...」

頬が自分で触っても熱い。

「あー、今すぐちゅーしてぇ!」

また画面の向こうで羚汰が叫ぶ。
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