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第51章 旅行 〜前編〜
2月中ごろはバレンタインもあってお店が忙しいので、2月の頭の土日だ。
思っていたより時期が悪いが仕方ない。


羚汰は夏に、ラコルテの研修という名目で、スタッフ皆でそのロッジに泊まったことがある。

入り口のホテルまでは車で移動しないといけない距離らしいが、そのホテルにはレストランもある。
そこで食事も出来るし、ロッジにキッチンも付いているらしい。

後は、着いてからのお楽しみだとかで、教えてくれない。

「あと1ヶ月もナイんだよね~。もうスグだよ」

慌ててシャワーから出てきたらしく、まだ全身は濡れている。
髪はまだしずくが垂れてきそうなぐらいだ。

本人も気になったのか、片腕を上げて後ろに髪を掻き上げる。

小柄な割に均整のとれた筋肉が美しく、その本人にしては何気ないしぐさが、また色っぽさを上げている。

この人物とつい先程まで体を重ねていたと思うと、稜の全身の血が沸騰する。

そんな恰好でウロウロなんてしないで欲しいー。

真っ赤になった自分の顔をごまかすように、慌てて踵を返し、玄関ドアを開ける。

「早く服着ないと風邪引くよっ。行ってきます」

「...ちょっ、稜!忘れ物~!」

ドアが閉まりかかる間に羚汰の声が聞こえて、また慌ててドアを開ける。

「えっ」

「ほら。弁当!」

靴を履くときに、弁当を入れたランチバッグを置いてそのままにしてしまっていたらしい。

羚汰の裸に動揺したせいだわ...。

バッグを受け取ろうと手を伸ばすと、その腕が引き寄せられ、バランスを失った体が羚汰の胸の中におさまる。

「ひゃっ」
「もうイッコ忘れ物~」

体勢を立て直し羚汰の胸の中から逃れようともがく稜の頭を掴まれ、唇が重なる。
腰も引き寄せられ、吐息が漏れた所へ舌がぬるりと入ってくる。

「んっ...」

羚汰の暖かな舌で優しく稜の舌が絡め取られ、突っ張っていた手が力を失う。

玄関の一段上がったところにいる羚汰が、タタキにいる稜の体を引き上げるように、抱きしめる。

息をつかせぬ応酬に、稜もいつしか羚汰の背中に腕を回している。

「...んはっ、...はぁんっ」
「...一番大事なもの、忘れちゃダメじゃん?」

ぐったり体を預ける稜の唇を、羚汰の指がなぞる。

「こんなの...行ってきますのチュウじゃない」
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