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第51章 旅行 〜前編〜
稜が指さした先には、さっきのいちご狩りのおっちゃん:木下さんの笑顔のドアップ顔写真がでかでかと貼ってあり、『大人気!木下農場のいちご』と書いてある。

「おわっ。木下さんだ」

「やっぱり」

その棚は、広いスペースだったが、昼過ぎだからかもういちごは1パックも残ってなかった。

棚の前で立っていると、近くの野菜を追加していたスタッフのおばちゃんが畳み掛けるように声を掛けてくれる。

「あら~。お客さんも、木下さんのいちご目当て~?ごめんなさいね~。人気で、朝1番になくなるのよね~。木下さんのいちご、おっきくって美味しいからぁ~。残念だけど、また来て頂戴ね~」

羚汰と顔を見合わせ、おばちゃんに会釈してその場を後にする。

「そんなに人気のいちごだったんだね。今お腹いっぱい食べてきたとこだし、まだいっぱいあるもんね~。なんか優越感!」

「あはは」

「羚汰のオカゲだね。ありがと!」

お礼を言うと、少しビックリしたような顔をして、照れ笑いをしている。

「あ、いい匂いがしない?あっち行ってみよ」

その先に屋台があり、そこで美味しそうなみたらし団子が炭火で焼いて売っている。
美味しそうな匂いが立ち込めていて、つい買ってしまう。

「いちごでお腹いっぱいじゃないの?」

大きな団子がみっつ連なっていて、その一個目にかぶりつく。

「じゃ、あげなーい」

「ちょーだい。お腹いっぱいって言ったの、稜じゃん」

ベンチに並んで腰掛けながら、じゃれあってその団子を食べる。
食べ出すと、いちごは水分がほとんどだからか、お腹が結構空いている。

結局、もう一本、あずきが乗った団子も買って食べた。


車が走り出すと、助手席の稜は満腹感から眠気に襲われる。
もうお決まりのように羚汰とつないだ手が、とても暖かくて心地よい。

羚汰が運転していて、その傍で眠るのは申し訳なくて、うつらうつらしながらも何とか起きている。

「稜、寝てていいよ」

「んー、でも」

今日の晩御飯に御馳走をしようと思って、昨日は夜遅くまで下準備に追われていた。

「いいって、寝てなって。まだもうちょっとかかるから」

「うー。ごめんね。じゃあ、ちょっと...だけ...」

稜は重たくなった瞼をそのまま閉じた。



「りょーーう。...稜っ!起きろって!」

「うん?」

「着いたよ」
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