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第52章 旅行 〜中編〜
「あ、...そう。ありがと」

せっかく落ち着かせていた心臓からバクバク音がしている。

「...じゃ、後でね」

羚汰がにやりと笑って、稜のオデコにキスを落として去ってゆく。

なんで、羚汰はあんなに普通なんだろう。
普通というか、スマートというか。
少しキザっちい行動も、素敵に思えてしまう。

一人でワタワタしてしまって恥ずかしい。
どっちが年上なんだか。

ぼうっとしていても仕方ない。
急がないと羚汰がやってくるし。

稜は慌てて用意し、風呂場に足を入れる。


そこは、夕方見た時とまた雰囲気が違った。

壁の間接照明が、オレンジ色の光をタイルに反射させている。
広い室内にその照明ではあまり明るいとは言えないが、大きな窓からは、月明かりだろうかほのかな光がさしていて、暗いとことはない。
窓のすぐそばのジャグジーでは大きな音がして滝のようにお湯が注がれている。
ほわほわとした湯気がひろがっていて、なんだかいい匂いもする。

ここに2人で入るのね...。

慌ててその考えを頭から追い出すように、体を洗う場所を探す。

先程は、ジャグジーに気を取られてわからなかったが、入口から左の方向にガラスで仕切られたシャワールームが見えた。

そこに入って、無心で髪を洗い、化粧を落とし、体を洗う。
無心でいないと、すぐこれからのことを考えてしまうからだ。

シャンプーやメイク落としは、自分の持ってきたのを使ったが、ボディソープはアメニティのものを使ってみた。
綺麗な入れ物に入っていて、とてもいい匂いがする。

そういえば、麻衣ちゃんがアメニティにはブランドものが使われていると言っていた。
ブランドに疎い稜でもわかる、有名ブランドのマークがついている。

それを使うのは少し気が引けたが、こんな時でもない限り、使うことはない。
思い切って、封をあけた。

泡立ちもよく、いい匂いに楽しくなってきて、体をモコモコにして洗っていると、ガラス戸が開いた。

「おっ、ちょうどいいタイミング〜!」

当然ながら、全裸の羚汰が入って来て、今まで以上に心臓が跳ね上がる。

「っ!ちょっと、まだ洗い終えてないからっ」

「いいじゃん。洗いあっこしよー」
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