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第58章 3週間ぶり

３月は、仕事が忙しい。

というのも、やはり４月から新生活が始まる人が多く、その為に保険に入る人が大きからだ。

稜をはじめ事務スタッフは、毎日書類づくりや営業さんが持ち帰った書類の処理に終われている。

お客様のところを飛び回ってる営業さんにはもっと大変そうだ。お客さんの都合で土日もなく呼び出されたりしている。

事務スタッフは、土日は休みなのでその点は助かる。
だが、自ずと残業をしなければならなくなる。

「高崎さーん、まだ帰んないんですか？」

帰り支度をしながら、桃香が声を掛けてくれる。

「うん。この書類、明日中には発送しなきゃだから、もうちょっと」

明日は金曜日。
金曜日中に発送する為には、今日明日で仕上げなければならない。

それに、明日には羚汰が帰ってくるかもなのだ。
明日は残業したくない。

その為には、今日少しでも明日の仕事をやっとくべきだろう。

「もう遅いですよ〜？社長に怒られますよ〜？？」

社長は残業があまり好きではない。

高校生になる娘さんがいる社長は、事務スタッフの女性陣も娘のように考えてくれているらしく。
事務所のある駅の近くは、少し物騒だと考えている。
実際、何年か前に、このビルの近所で露出狂騒ぎがあった。
それ以来、残業はなるべくしないように言われている。

「んー。大丈夫。桃香ちゃんは帰って」

「もうっ、いい加減にして下さいよー？」

説得を諦めた桃香が、事務所を出た。

これで、そこそこの広さの事務所に一人ぼっちだ。

営業さんも、1人事務所に帰って来てない人がいるが、連絡忘れで直帰したのかもしれなかった。

稜は、スマホを取り出して好きな音楽をかけながら、作業にとりかかった。
1人だからこんな事をしても、大丈夫〜！

時折歌いながら、ホッチキスで書類のカドを止める。

稜の席だけでなく、隣の席2つも使って綴じるものを広げて、回収し、ホッチキス。

稜の好きなバンドが年末に出したアルバムをひっさげて、ワールドツアーをすると発表があった。
今のところ発表リストにアジアは含まれていないが、日本にも来ないかしら。と勝手に期待している。

ふとスマホが鳴った気がして、画面を見ると、羚汰からではなく、桃香だった。

「まだ帰らないんですか？」

あれからまだ数分しか経ってないのに、しつこいね。

ええい、既読スルーしちゃえ。