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第65章 unmoral
「あの日...花見の日。...貴之さんが駅まで送ってくれた時」

羚汰がそのままの姿勢で話し出した。
仕方なく、服を摘んだまま待つことになる。

「...うん」

「短い時間で、途中止めになったからかもだけど。すげー意味深な事言われてー」

「えっ!?...何を言われたの?」

あの日確かに貴之は、ハイになってて。
って、理由は、家から出る直前にクローゼットで千夏とヤっていたからなんだけど。

「...“彼女を幸せにしたげてな”とか、“俺のセイで、彼女が一人なるって申し訳ない気持ちでいたんだけど”とか、“幸せになってもらいたいんだ”とかー」

羚汰がまた大きく息を吐く。

「それ聞いて、やっぱ付き合ってたんだって」

確かに!!その言葉だけを聞いていると、勘違いしても可笑しくない!!

「ほんっっと、ちがうよ!それ!!」

去年の春に、千夏に呼び出されて、初めて貴之を紹介されて3人で飲んだ。
本当は有希子にも声をかけたのだが、子どもの1人が熱が出たとかで来れなかったのだ。

そこで、千夏がプロポーズされたんだと報告してきて。
もちろん、稜は大喜びで祝福した。
3人で何度も乾杯して、千夏の話をひたすら聞いてだったが盛り上がった。

千夏がトイレに立った時、貴之が神妙な様子で謝ってきたのだ。

「?どうして?」

羚汰が不思議そうな顔をしている。

稜は、その時のことを思い出しながら、笑って羚汰に説明する。

「親友の千夏を取ってごめん、って」

千夏からいろいろ聞かされていたらしい。
色々どころか、きっと大袈裟に伝わっているのだろう。
稜が1人になってしまうことを、すごく申し訳なさそうだった。

確かに、稜には千夏と同じように何人か友人が居たが、結婚したり転勤したりして、疎遠になっていて。
よく会うのは千夏ぐらいだった。

そのイワバ、最後の千夏も貴之と結婚してしまう。

まだ失恋の傷も癒えず、彼氏を作りそうにない稜を置いて結婚することを、千夏は心配しているんだ。と。

そんな事を千夏が思っているとは思わなかった。

ちょうどトイレから戻ってきた千夏と、お酒がだいぶん入っていたこともあって、2人で抱き合っておいおい泣いた。

「ごめんねー。私が先にー」

「そんなことない。幸せになって!」

そんな2人を見て、貴之は目を丸くしていた。
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