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第70章 実家
「はい。開けまーす」

ポン、と可愛い音がしてシャンパンが開けらる。

細長いグラスが差し出され、琥珀色のシャンパンが泡と共に注がれる。

「これ、凄そうだけど。安いやつだから安心して」

呆気に取られたままの顔でグラスを見つめる稜を、羚汰が自分のグラスにも注ぎながらくすくす笑っている。

「はい。乾杯」

「...ありがと」

すこし辛めですっきりとした味わいのシャンパンが、喉を潤してくれる。

「美味しい」

「よかったー。これ、店でも人気のやつ。稜も気に入ると思ったんだ」

今更ながらに羚汰を見ると、白いシャツに黒いズボンと、珍しくシンプルな格好で。
ふわふわの髪の毛も、整えられている。
最近、ほぼ地毛なのではというほど黒くなってきていてー。

羚汰は以前、髪が黒いと幼く見られるからと言っていたが、稜にはぐっと大人の色気が増したように思える。

「何?そんなに見つめて」

「だって、今日の羚汰...」

「うん。店の制服、やっぱ持って帰れなくてさー。似たようなの探してこーなった」

以前、コートの下に制服を着て帰ったことがあった。
やはり翌日怒られたらしく。
今回は持って帰れなかったらしい。

「稜は...。それはワザと?」

指を刺された胸元に目線を落とすと、ブラウスのボタンが上から3つも外れ、スカートからブラウスの裾が半ば引き出されている。

「きゃ!」

風呂に入ろうと脱ぎかけていたのだ。
慌ててグラスを置いて、ボタンをとめる。

あまりの出来事に自分の格好のことなどすっかりわすれていた。
笑ったらいけないと思ったのか、羚汰が押し殺すように笑っている。

「はい。食べて食べてー。ケーキもあるからね」

「ありがと」

「稜が、お金かけるなー!っていうからさ。質素なカンジだけど。心はこもってるから」

確かに、これといって豪華な食事ではなかったが、どれも彩が綺麗で丁寧に作られたのは一目瞭然だった。

「美味しい!羚汰のピザ大好き」

「よかったー」

2人で笑いあって何度も乾杯し、食事を平らげ、ケーキも平らげた。

「ありがとう。驚いたけど、すごく嬉しかった」

誕生日だから俺がする、と言って洗い物をする羚汰の背中に抱きついてお礼をいう。

「よかった。...洗い物も済んだし、一緒にお風呂入ろっか」

稜はすこし躊躇ってから、首を縦に振った。
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