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第70章 実家
3人がすぐそばにいるのも忘れて、羚汰に吸い込まれそうになっていると、現実に引き戻される。

「ちょっと、そこ!いちゃいちゃしないで下さーい」

「!してないし!!」

慌てて椅子から乗り出していた体を離す。

母親がテーブルの上の寿司桶を片付けてはじめて、それを手伝う。
買ってきたシュークリームを皿に並べる。
4個買うのは、数も悪いし少ないかなと、6つ買っていた。

紅茶を用意してテーブルに戻ると、羚汰と空人が談笑している。

父親は、こんなに長い間ゲージの中に閉じ込められたことはないカイ3世を出してあげていた。

「おっ、これってあの商店街んとこのケーキ屋の?懐かしい〜」

シュークリームのフォルムで、どこのかがわかったらしい空人が、手を伸ばして一番にかぶりつく。
この様子だと、6つあるシュークリームも残ることはないだろう。

「羚汰も食べてね」

「うん。ありがと」

当然ながら羚汰の耳にはピアスが一つもなくて。
それを今更ながらに気づいた。

それで、なんだかいつもと違うのかな?

「まぁた見つめあっちゃってー」

シュークリームをかぶりつきながら空人がぶつぶつ言っている。

「なによ。普通の会話じゃない」

そう言いながらも自分の顔か赤くなっているのを感じる。

「でもさ。相手が大学生だって聞いた時は、姉ちゃん絶対遊ばれてるって思ったけど。そうじゃなさそうで、ちょっと安心した」

ちょっと、なんてことを。
羚汰を目の前にして。

「羚汰さん、姉ちゃんをよろしくお願いしますね」

急にあらたまって、ぺこりと小さく空人が頭を下げた。
父親はソファ近くではしゃぐカイを撫で回していて。
母親はキッチンで何やらフルーツを切っている。
そんな2人はテーブルでこんな会話が繰り広げられているとは気づいてないようだ。

「え、あ、はい」

空人からそんなことを言われるとは羚汰も思ってなかったからか、慌てて最後の一口を飲み込んで姿勢を正している。

稜は、あまりのことに何も言えずにいた。

「ってなワケで。俺は帰るわ」

大きな声で立ち上がり、流石にこの声には両親も気づいた。
母親がフルーツを盛った皿を持ってやってきた。

「あら、あんた本当に食べたら帰るのね」

「うんまあ。あ、玄関のとこにさ、内祝いのやつ置いてるから。おばちゃんとか親戚に渡してくれる?」
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