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第70章 実家
結婚の挨拶ではないので、父親も、いつもはやかましい母親もどう返事をしていいものか、少し困惑しているようだ。
それでもきちんとした羚汰の挨拶に、悪い気分ではなさそうだ。

羚汰が続ける。

「僕にとって稜さんは、とても大切で。かけがえのない人だと思っています」

羚汰の顔が稜をにこやかに見つめ、テーブルの下でそっと手がつながれる。

「来年までの1年。一緒に暮らすことを認めてくれませんか」

「わ、たしからもお願いします」

何か言わないとと、羚汰のセリフに被るように稜からも願い出た。

思えば、前彼の時は「結婚するから」と、どこか上から目線で。
“お願い”するのは初めてかもしれない。

「少しでも2人で一緒に過ごして。それで、彼を支えたいの」

食事前に、羚汰が昼間は学校。その後はバイトで遅くまで。そして、土日もほとんど働いているという話をしていた。
稜が毎日お弁当を作っていることも。

「今も部屋は隣同士なんでしょ。それでいいじゃない」

母親はやはり“同棲”に乗り気ではないようだ。

「そうだけど。ほら、家賃や光熱費とか節約になるし。来年に向けてお金貯めたいから」

「僕は、彼女が部屋で待ってくれていると思うと、すごく安心するんです」

羚汰の父親は仕事人間で。
母親は、外国からの留学生に携わるボランティアで飛び回っていて。
年の離れた兄姉は、塾で遅くまで出かけていて。
真っ暗な家に帰ることが多かった。
晩御飯も1人で温めて食べて、1人で布団に入る。

休みの日は近くにあった祖父母の家に遊びに行くことも多かったが、それは物心ついた小学校〜ずっとで。

次第に中学や高校に入り部活や友達と遊ぶことが増えていったものの。
それが家族のカタチとして普通で、当たり前だと思っていた。

「彼女と一緒にいるとあったかくて。家族ってこんなカンジなんだろうなって」

羚汰の家族の話は聞いていたが、そこまで寂しい幼少期を送っているとは思わなかった。

稜の両親もしんみりしている。

「本当はね。羚汰は、もっと早く挨拶に来ようとしてくれてたんだけど。その、私がなかなか決心つかなくて...」

前回の出来事を両親も鮮明に覚えているだろう。

「...わかった」

父親が大きく頷いた。

「いいだろう。だけど、1年経ったら結果出すんだぞ」

2人は大きく頷いた。
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