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朏の断片
第5章 #5
「どしたん……?」
暗いままの部屋に入り、上田の前に片膝をつくと、上田は三角座りの膝に物憂げな目を覗かせていた。しばらく沈黙のあとポツリポツリと呟く。
「医者が言うには移植って事例自体が世界でもあんまりなくて、性同一性障害とかでもないし、法律的にも技術的にもそれはどうかって」
「待て待て待て。何の話や」
片桐の頭はハテナに埋め尽くされる。上田はついに下を向いて肩を震わせはじめた。
「美希が死んだ」
「――なん……?」
頭がついていかない。何を言っていいか咄嗟には浮かばない。
「ずっと二十歳まで生きられないって言われてたから、俺、美希に」
ボロボロと落ちた涙が膝を濡らしていく。グズグズと鼻をすする音が部屋に響いた。
壊れ物に触る気分でそっと手を伸ばして髪に触れる。手が震えた。
「それでも、俺、美希に生きて欲しくて」
髪から頬へ手を移すと涙で髪が貼り付いた。
「性転換手術してほしいって言ったんだ」
心臓を鷲掴みされたような気がした。死んだ双子の性器を移植しての性転換手術なんて聞いたことがない。つまり最初に言ったのが結論なんだろう。