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そのキスは許されていない……
第1章 私は貴女のモノ。でも貴女は…
それでもあなたは……

その愛おしい唇にキスすることだけは最後まで赦さなかった。


「ここは未来の旦那様のモノよ……」

唇を華奢な指でなぞりながら口角を上げ、ほくそ笑むあなたが可愛くて……

その禁を侵すことができないうちに、あの男に浚われてしまった。


チリリリ~ン!!

真夜中近く、静まり返った部屋に甲高いベルの音が鳴り響く。

掌にあった携帯をポケットに押し込み、

お嬢様の部屋のドアを静かに引っ掻いた。


「さえきぃ~」

扉の向こうから甘ったるく掠れた声が聞こえる。

「失礼いたします……」

揺れる気持ちを押し込めてドアを開け、

ワゴンを押しながらその部屋に入った。


妖しい色合いの間接照明に麝香の香りが充満する部屋。

後ろ手でドアを閉め顔を上げた時、瞳に飛び込んできたのは、

天蓋付のベッドのカーテンが開けられ、

明らかに事後と分かる乱れたシーツを纏い

頭だけ持ち上げて横たわるあられもない姿のお嬢様だった。


私はまず照明をいつもの柔らかい光に戻し、換気扇のスイッチを入れた。

「ここまできて……」

あの男が刻み付けた熱を孕んだままのお嬢様が、私の事を呼んでおられる……

ワゴンをベッドわきまで移動させ、その手を取り床に膝をついた。


「お願い……」

こちらに微笑みかけてから、けだるそうに頭を枕に戻して目を閉じる。
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