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第64章 十三夜の月　《壱》

　ゆえに、主君からの信も厚く、兄がいつまでも二百石取りの馬廻役に甘んじているのに対し、壱之進は、わずか二十一歳の若さで殿の側近の一人に抜擢されるという栄誉を得た。
　ちなみに、二人の主君というのは、五千石の直参旗本榊原泰晴である。榊原氏は初代将軍東照公以来、将軍家に仕えてきた譜代の名門であり、現当主泰晴の祖父泰雅は十一代将軍家宗公の姪を生母とし、将軍家とも縁続きにあるという由緒正しき家柄である。