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第64章 十三夜の月　《壱》

　壱之進の生まれた進藤家は代々百石を賜る家で、家格も禄高も美咲の実家安井家には及ばなかった。しかし、壱之進の生母お克(かつ)の父が榊原家の重臣内藤主馬(しゆめ)であり、娘しか持たなかった主馬の養子となって内藤家の跡取りとなったことから、壱之進の人生は大きく飛躍したのである。
　いずれは重臣の家を継ぐ、更に衆に抜きん出た人柄とあり、壱之進は次第に頭角を現し、ついには主君泰晴の眼に止まったのだ。