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蝶は愛されて夢を見る~私の最愛へ~
第64章 十三夜の月 《壱》
―帰ろう、大好きな人たちのいる場所へ。
決意にも似た想いがよぎった刹那。
ふっとすべてのものがかき消えた。
美咲は狼狽えて周囲を見回す。
しかし、先刻まで眼前で穏やかな微笑みを湛えていた老尼も自分たちを取り巻いていた光景―古めかしい、小さな庵の一室もかき消すように見えなくなっている。
柔和な笑みを浮かべていた優しげな尼も小さくて小綺麗な庵もまるで端からそこに存在しなかったかのように忽然と霧のようになくなっていた。