この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
Only you……
第9章 麻都 5
社員や葬儀屋、墓石店への連絡に明け暮れていた。透真と2人で受話器を握り絞め傍らでりんがメモを取る。社員たちは貴正の体について薄々気付いていたらしく対応は迅速だった。既に連絡網のようなものが出来上がっており、課長か部長あたりに電話をすれば皆に回してくれる。忙しい中有り難かった。
透真の方をちらりと見るが、特に変わった様子はなくいつも通りへらへら笑って話している。こんな切羽詰った状態ではろくに悲しんでもいられないだろう。
俺はちょっと前に透真に渡された手紙の内容を思い出していた。おっさんの遺言とでも言うべきその手紙には我侭ばっかり書いてあった。墓石は白だとか、棺にはカラフルな花を入れろとか、坊主も神父も呼ぶなとか。俺は思わず笑ってしまった。
カタン――。
テーブルの上にお盆がぶつかる音がした。明が香ばしい香りを漂わせているコーヒーを配っている。軽く礼を言うと、1口だけ飲んだ。
「ふーっ……」
どさりとソファに崩れ落ち大きく伸びをした。受話器を擦りつけていた耳が痛い。結局おっさんの両親と兄には連絡がつかなかった。住所も電話番号も、名前すらも分らないのだから手の出しようがなかったのだ。透真もそれを聞くと嫌な顔をされるからといって詳しくは知らなかったようだ。子供を捨てた親なんて呼んでもおっさんが喜ぶかどうかは不明ではあったが。
首を捻ると骨が鳴る。
りんがペンを動かす音だけが響いている。俺と透真はソファから這い上がろうとはしなかった。
会場の方は企画部と開発部の方が設営してくれている。場所は近くの公園を借りた。狭い所では全員が入りきらないし太陽の光を余り浴びたことがなかったおっさんに最期くらい拝ませてやりたかったからだ。
雛壇のように積まれた台の上には遺影と棺が横たえられ、周りを希望どおり色とりどりの花が囲んでいる。それはまるで、天国の風景を垣間見ているようだった。
俺は不意に空を見た。雲は浮かんでいない。1台の飛行機が微かな音をたてて飛び去っていく。
袖口を引っ張られ俺は下を向いた。明が縋りつくように腕に絡みどこかを見ていた。
「どうした?」
声をかけたが振り向こうとはしなかった。代わりに返ってきた言葉。
「あの笑顔は本物かな……?」