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Only you……
第9章 麻都 5
視線の先には透真の後姿。涙を流しながら最期の別れを惜しむ社員に声をかけて回っている。その顔には切なそうな笑いが浮かんでおり、余計に涙を誘った。永遠の愛を誓った者同士の別れは見ている方が辛かった。

明の双眸にも薄っすらと涙が窺える。俺はまた空を仰ぎ鼻をすすった。

「少し休んだらどうだ? 疲れただろ」

透真は振り向き、伏せ目がちに首を左右に振った。

「疲れていないわけではないけど、今は忙しい方が楽なんだ」

目の下に浮かび上がったクマがまるで透真の心そのもののようだった。

「棺に……花をつめてやってくれるかい?」

明の髪を撫でながら透真は言った。小さな返事を返すと明はタカタカと人ごみへ紛れていった。

2人で空を仰ぐ。少し雲が出てきた。

いつかこのときが来ることは分っていた。命はいずれ尽きてしまうと。ただ、まだ早すぎではないだろうか、という疑問もおさえられない。透真は肩を震わせて溜息をついた。

「あぁ、約束破りそう……」

そんなことを呟きながら鼻をすすった。

「約束?」

「泣くな。笑え」

俺は透真の横顔に疑問符を浮かべる。涙を堪えた笑顔が俺を見据えた。

「“泣くな、笑え”。遺言ってやつ?」

視線を外し再び空を――。軽い風が花の香りを運んできた。

「うっ……く、うぅ」

震える背中をぽんぽんとなだめるように叩く。必死に堪えようとしている様は健気なもんだ。

「泣いていいよ」

俺は透真の体を包みあやす。しゃっくりが漏れ止まらなくなった雫は小川を築いている。

「俺と明の結婚に感動してるんだろ?」

透真はガバッっと顔を上げ、そして微笑んだ。

「そうだな、そういうことにしといてやるよ」

風よ、透真のこの想いを馬鹿オヤジの元まで運んでやってくれ。
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