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Only you……
第1章 麻都 1
「お? ヤル気か、こいつ」
「ひゃはは、スーツじゃキマんねー」
馬鹿にされたって構わない。そんなことは、大した問題ではないのだ。俺にアイツが守れるのかどうか、そこんところが問題なダケ。それに、俺は、拳にかなり自信があるのだ。それもまた、変な会社と妙なオヤジのおかげでもあるのだが。
「準備はOK? サラリーマンさん」
「あぁ、かかってこいよ」
適当に返事をした次の瞬間、俺の顔面めがけて拳が飛んできた。俺はそれを軽く首を傾けることでかわし、反対に大振りすぎるその腕を掴むと一本背負いを決めてやった。
手加減はしたつもりだ。こんなところで怪我をされても困るし。だが、全く受身を取れなかった奴にとっては結構なダメージになっただろう。転がってうつ伏せになり、咳き込んでいる。
「……のやろう」
倒れたままの奴の上に足をおき、飛んでくる拳を萎えさせる。と、勢いあまった奴の腹に俺の膝を食い込ませる。
「ぐっ……」
ラストは先に俺から拳を入れる。奴の顎に華麗に決まり、立ち上がれなくなった奴の顔面を片手で掴んで持ち上げる。
「うらぁぁ!!」
「おっと」
ひょいと横に跳ぶ。そして、もう一度構えようとしたさっきの奴に対して叫ぶ。
「まだやる気? じゃあ、こいつらどうなってもいいんだ」
倒れたままの男の腹に両足を乗せる。なんとか腹筋で耐えようとしているが、つぶれるのは目に見えている。そして持ち上げた男の頭を電柱に向かって打ちつけようと――。
「やめてくれぇ」
手にもった男を放り投げると、腹に数発のパンチを入れる。そして転がっていた男の背を思い切り蹴りとばす。
こんなんじゃ、アイツの晴れない。分かってる。これは自己満足。アイツのために何かしてやったぞ、っていう自己満足。
男たちはふらふらしながら逃げていった。
「ばーか」
ふっと笑い、振り返る。
「……ぅ」
アイツは膝を折って倒れた。
「おい! 明!! 大丈夫か?」
抱きとめたアイツの体は異常な熱を帯びていた。呼吸は荒く、額には汗が滲んでいる。青白い顔。俺はアイツを抱き上げると、家へ帰るべく、タクシーを捕まえた。