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Only you……
第2章 明 1
「くはぁ……」
引越しが何とか今日中に終わり、麻都は溜息をついた。オレは急いで夕飯の支度を始めようとした――。
「今日くらい休めば?」
そう言いながら、麻都はオレの腕を掴んだ。振り返ると汚れを知らない、綺麗な瞳でオレを見上げていた。オレはまるでギリシャの石造を見ているようで、息を飲んだ。
「……だ、駄目だ。オレは養ってもらってるわけだし。居候なんだからこれくらいはしないと」
「……居候?」
オレの言葉に麻都は眉をひそめた。オレにはその理由が全くわからずに、麻都の腕を振り払って、キッチンへと向かった。
なんとなく、もう一度振り返るのが怖かった。もう大切に思うものを失うのは怖かった。
「ねぇ、どういうイミ? その居候ってさ……」
慌しくエプロンをする。意味なんて、そのまんまだよ。
「俺、言ったよな? 同棲しようって」
しまったばかりのまな板と包丁を取り出す。冷蔵庫を開け、ジャガイモを取り出す――。
「ひゃっ」
突然後ろから抱きしめられ、驚いて手にしたジャガイモを落とした。頭では冷静に「あぁ、痛んじゃうな」とか思いながら。
力がどんどん強くなる。回された腕のある肩が痛かった。
「痛っ」
「あ、ごめん……」
不意に拘束していた腕が解かれる。オレはゆっくりとしゃがみこみ、転がったジャガイモを拾う。
「痛んじゃったじゃん」と呟きながら。
「一緒に住もうって、言ったんだよ……」
――そんな悲しそうに言うなよ。
「居候とか言うなよ……」
――どうせ、一時の迷いだから。
「俺はお前が――「それ以上言うな!!」
オレはジャガイモを潰さんばかりに握り締めて叫んだ。好きだとか言われたくない。その言葉に、何度騙されたことか。
――もう、騙されない。
――もう騙されない。
――モウダマサレナイ。
叫ぶとオレはジャガイモを投げつけ、寝室へと駆け込んだ。寝室には鍵がついていて、ロックするとベッドにダイブした。麻都が「開けろ」と叫んでいたが、もちろん無視した。
外に駆け出せない弱い自分が情けなかった。