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僕たちはこの方法しか知らない(BL短編集)
第2章 最後のチャンス

髪をもう一度撫で、そのままスルリと頬へ下ろす。啓斗がここに現れてから染まりっぱなしの頬は温かかった。少し子供っぽい柔らかな頬を親指の腹で撫でる。

和幸は一瞬息を飲んで、それからため息のように熱のこもった声を発した。

「俺……いーんちょが好き」

「うん。知ってる」

そんなことは三年前から知っていた。恐らく啓斗の方が先に和幸を見ていたから。

「いーんちょが、好き……好き」

一旦言葉にすると、今まで抑えてきた分が堰を切ってあふれ出してきた。好きと口にするたびに、和幸の瞳からはぽろぽろと雫が零れる。

啓斗はそれを両手で包むように拭いながら、和幸の顔を少しだけ上向けた。

「いーんちょが……!」

熱に浮かされたように好きを繰り返す唇を、啓斗は自分のそれで塞いだ。和幸の唇はしっとりと柔らかく、ただ触れるだけのキスにもかかわらず啓斗の唇とピッタリ合わさった。啓斗の心臓も普段より速く脈を打つ。ずっと待ち望んだ言葉、感覚、すべて。

「え、何……今の、え……」

唇を離しても混乱の中にいる和幸の額に今度は唇をつける。チュッと小さな音がした。

「俺がお前にキスしたの。初めてだったら嬉しいかも」

知らずに舞い上がっていた啓斗は、普段なら口にしない本音まで零して少し眉を寄せた。

「ほら、お前、カラオケ行くんだろ? 早くしないとブーイングの嵐だぞ」

廊下に散らばった荷物を集め、挙動不審な和幸に押し付ける。

「あと、今日中に必ず俺に連絡すること。しなきゃどうなっても知らないからな?」

意味深な笑みを浮かべ、啓斗は自分の荷物を拾い上げた。ぽんぽんともう一度和幸の頭を撫でると今度は和幸が見上げてきた。

「そ、卒業して、別々の大学になっても……また会えるの?」

「会いたくない?」

和幸はブンブンと首を横に振る。

「よかった。じゃあまたな。バカなお前でも、連絡すること忘れんなよ」

啓斗は和幸の目に薄っすらたまった涙を指先で強引に拭うと、片手を上げて去っていった。

和幸は渡された荷物を抱えたまま、そっと唇に触れてみる。そこに誰かの唇が触れたのは初めてだった。鏡を見なくてもわかる。自分の顔が夕日に負けないくらい真っ赤だということ。

少し胸の高鳴りを抑えてから行こうと、和幸は窓の外を眺めた。




――END

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