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Only you……番外編
第5章 出会い
「東 隆が死んだよ」
病院から帰ってくるなり、私――佐伯 貴正(さえき たかまさ)――の伯父である佐伯 正巳(さえき まさみ)は言った。その顔には精神的な疲労が、色濃く浮かんでいた。社長室の自分の席にどかりと座り込むと、「ふぅ~」と大きなため息をついて額を押さえた。
東 隆(あずま たかし)は、伯父の大親友であり、もっとも交友のある隣の会社の社長でもあった。その隆さんが死んだ。原因はガンだ――肺がん。気付いた時にはもう随分と進行していて、手術をすることも出来なかった。転移が酷かったらしい。死が近いのはもう誰の目にも明らかだったのだ。
「貴正。奴は最期に言ったよ――」
私は伯父の傍に寄り、その小さな声を聞き取ろうとした。
「何だって言ってました?」
「……」
静かに席から立ち上がり、ブラインドを下ろした大きな窓の前に立つ。私から伯父の表情は見えなかった。あまり背が高い方ではない伯父が、いつもよりもっと小さく見えた。
「会社を合併する」
静かに、しかし力強く言い放った。私は「はい」と答えた。それが隆さんの答え。それが隆さんの願い。それを叶える義務が伯父にはあるだろう。
「貴正」
「はい」
「次期社長はお前だ。これから2つの社を担ってゆくのはお前だ」
「……はい」
31歳で社長とは、若すぎるかもしれない。周りからの反発は容易に想像できる。それは社内の反発ではなく、これから合併する方の社員からのだ。