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Only you……番外編
第1章 社長室の中は

 コンコン――。

ノックしてみる。中からは「は~い」というやる気の無い声が聞こえてきた。静かに扉を開ける。

「失礼しま――」

「透真ぁー!!」

喋っている途中で、抱きつかれ、僕は言葉を飲み込んだ。危うく舌を噛み切るところだ。僕の腰には、しっかりと社長がくっ付いていた。

「遅いぞ、透真! もっと早く来なさい」

「……」

いつも我侭な社長。僕の家が遠いことを知っていて、わざわざそんなことを言う。僕は社長の――佐伯 貴正(さえき たかまさ)――の専属秘書だ。

「返事は? これは社長命令だぞ」

「……はい」

社長は何かにつけて、命令、命令といって、僕を振り回す。そして、僕の仕事を妨害する。

「今日のご予定なんですが――」

「今日はオフでよろしく!」

またふざけたことを……。オフって……芸能人じゃないんだから。

「例の会社との会議があり――」

「透真と今日はデートだぁ」

僕の話なんて少しも聞かずに、やたらと嬉しそうに部屋を飛び回る社長。なんだか、真面目に頑張っている自分が情けなくなってくる。仕事に来て、ここまではしゃげる社長って一体?

溜息をつく。

「どうした? 悩みでもあるのか?」

突然顔を覗き込まれ、慌てる僕。

「べ、べつに」

「ふーん」

きっと今、顔が赤いに違いない。僕は自分の頬に触れてみる。

社長はいつの間にか、自分の机の上に詰まれた書類に取り掛かっていた。その長めの前髪、長い指、通った鼻筋――。

ぼーっと見とれていた自分に気付き、慌てて首を振る。
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