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Only you……番外編
第7章 薬

「透真――」
「ん?」
「って呼んでもいい?」
沈黙の時間が辛くて、紛らわすためにそんなことを口走っていた。透真はブッっと吹き出し、大声を上げて笑った。私はそんなに笑われるようなことを言ってしまったのかと、ちょっと後悔した。
「くっくっくっく……。い、いよ、くく」
笑いがなかなか収まらず、曲がり角を1つ、ウインカーを出さずに曲がってしまった。
私は赤面した。
「じゃあ、僕も貴正って呼ぶ」
「え、駄目っ」
私は慌てて拒否した。
「何で?」
透真はあからさまに不機嫌さを含んだ声を出した。それに私の体がびくんと反応する。
「……だって、私の方が年上なのだから……」
ごにょごにょと独り言のように喋る。
「そんなの知るかよ」
怒りの台詞が帰ってくるのかと思い、身構えていたが、帰ってきたのは拗ねたような、いじけたような口ぶりだった。私はほっと方から力を抜く。
その様子が透真にも伝わったらしく、透真はため息をついた。
「僕のせいで緊張してるのか。僕はいつも貴正のところに行っては、文句ばかり言うからな」
透真は寂しげに乾いた「ハハハ」という笑い声を上げた。それを聞いて、何だか怯えている私の方が悪者に感じてきた。と、いうか、実際透真からすれば、私が悪者なのだ。
「怯えるな……とは言えないだろうが――」
目線の先には、巨大なビル――佐伯自動車本社が見えてきた。
「貴正にどうこうしようとは考えたことはない。信じろなんて無理だろうが、そんなことを言っていたと、覚えていてくれ」
車を逃げるように降りる。透真は「バイバイ」と手を振り、車を出した。私は複雑な気持ちで見送った。
――なぜ優しくする?
――なぜ笑える?
――なぜ信じろと言う?
――なぜ、バイバイなんて……?
「あ、いけね」
私は手に透真に渡すはずの書類を持ったままだった。気付いた時にはとっくに遅く、透真の乗る真っ白の車はもう見えなかった。
「……働けよ自分」
透真が去っていった方向を見つめ呟いた。透真はどんな気持ちで、私に接したのだろう。どんな気持ちで話していたのだろう。どんな気持ちで――。

